狂犬病のワクチン接種は義務ですが、混合ワクチンを接種するかどうかは飼い主さんの判断で、義務ではありません。しかし、動物病院から毎年、ワクチン接種のお知らせが届いたり、ドッグランやペットホテルなどでワクチン接種求められたりすることで、多くの方が混合ワクチン接種も義務だと勘違いされているようです。
また、混合ワクチンには3種、5種、8種など、複数の種類があります。
どうせ打つなら一「たくさん接種しておいた方が安心よね」と、むやみに多種の混合ワクチンを接種させている方も。
ワクチンには副作用もあります。
愛犬の健康や命を守るためには、ワクチンの種類、摂取する間隔などをきちんと理解して、必要なものだけ接種することが大切です。
犬のワクチン、どんな種類があるの?
犬のワクチンには、法律によって接種が義務付けられている①「狂犬病ワクチン」と、任意で接種する②「混合ワクチン」があります。
① 狂犬病ワクチン
狂犬病は、効果的な治療方法がなく、感染するとほぼ100%死亡する怖い病気です。
現在、日本での発症例はありませんが、世界での狂犬病による死亡者数は59,000人と推計されています。(WHO「世界の発生状況」2017年)
飼い犬の登録をしているばあいには、通常4月から6月頃に集団接種のお知らせが届きます。
動物病院でも接種できますが、接種済証を保健所に提出する必要があります。
動物病院から送ってくれる場合も多いので、確認してくださいね。
② 混合ワクチン
混合ワクチンとは、複数の感染症を一度に予防できるワクチンで、接種方法については多くの病院が
WSAVA(世界小動物獣医師会)の「ワクチン接種のガイドライン」を基本にしています。
※WSAVAは、114の加盟団体から選出された20万人以上の獣医師からなる世界的なコミュニティで、
世界中のコンパニオンアニマルの健康と福祉を向上させ、
コンパニオンアニマル獣医師を代表して世界的に発言するために活動しています。
混合ワクチンにはどんなものがあるかというと、まず、大きく「コアワクチン」と「ノンコアワクチン」に分かれています。
●コアワクチンとは
コアワクチンは、すべての犬に接種することが強く推奨されているワクチンで、「ジステンパーウイルス」「アデノウイルス1型(犬伝染性肝炎)」「3.アデノウイルス2型」「4.パルボウイルス」に効果があります。
・犬ジステンパーウイルス
感染した動物の体液(唾液、鼻水、尿、目やになど)や、くしゃみなどの飛沫からも感染します。
感染力が高く、確実な治療法もないため、致死率も高い病気です。
【症状】発熱、目やに、鼻水、食欲不振、嘔吐、下痢など。
・犬アデノウイルス1型(犬伝染性肝炎)
感染している犬の尿や唾液、糞便を通じて伝染します。
感染した犬と直接接触するほか、汚染されたものから間接的に感染することもあります。
【症状】発熱や食欲不振、嘔吐、下痢など。
・犬アデノウイルス2型
主に犬の呼吸器感染症を引き起こすウイルスで、「犬伝染性喉頭気管炎(ケンネルコフ)」の原因の1つです。感染した犬の唾液や鼻水などから感染します。
感染した犬との直接の接触のほか、犬舎やおもちゃ、フードや水の容器などを介して感染することがあります。
【症状】咳やくしゃみ、鼻水など風邪に似た症状が出る。
・犬パルボウイルス
感染した犬の便や吐しゃ物から感染します。
感染力が長期間続く、感染力の強いウィルスで、特に仔犬にとっては危険です。
【症状】激しい下痢や嘔吐、血便、脱水症状など。
●ノンコアワクチンとは
ノンコアワクチンは、生活環境や生活スタイルに応じて接種が推奨されるワクチンです。
日本では2種から11種類の混合ワクチンがあるので、接種する際は、住んでいる地域の感染リスクや犬の生活環境、犬の年齢や体調をふまえて、どのワクチンが必要か、獣医師に相談しするとよいでしょう。
≪主なノンコアワクチン≫
・犬パラインフルエンザ
ケンネルコフ(犬伝染性気管支炎)の原因の1つで、呼吸器感染症を引き起こすウィルスです。
【症状】咳、くしゃみ、鼻水、目やに、発熱など。
・レプトスピラ症
主にネズミなど感染した野生動物の尿や、その尿に汚染された土や水などから感染します。
また、人にも感染する人獣共通感染症として知られています。
【症状】発熱、嘔吐、倦怠感、多飲多尿、黄疸、血尿など。
WSAVAが推奨しないワクチンもある
WSAVAでは犬コロナウイルス(CCV;不活化および MLV、注射)など、非推奨ワクチンも指定しています。
犬コロナウイルス(CCV;不活化および MLV、注射)
非推奨。CCV 感染症は通常は無症状か、臨床症状が発現しても軽度である。
WSAVA-vaccination-guidelines-2015-Japanese.pdf
確定された CCV 感染症の有病率は、現在利用可能なワクチンを用いる根拠とはならない。
既存のワクチンが、CCV の病原性変異株に対して防御効果を示すというエビデンスは得られていない(Buonavoglia et al. 2006, Decaro et al.2006)[EB1]. CCV は多くの症例から分
離されるが、VGG は CCV が成犬における重大な主要腸内病原体であることにまだ同意していない。いずれの研究も、この感染性病原体はコッホの条件を満たしていない。
混合ワクチンは毎年打つ必要ある?
狂犬病ワクチンは法律で1年に1回の摂取が定められていますが、混合ワクチン接種はあくまで飼い主さんの任意です。
ただ、万が一感染した時のことを考えて、コアワクチンの接種が推奨されています。
WSAVA ワクチネーションガイドライングループ(VGG)は、「コアワクチンとは、世界的に重要な感染症に対するものであり、その防御のために世界中のすべての犬に、推奨された間隔で接種すべきものと考える」としています。
また、コアワクチンは免疫持続時間が長いことが分かっており、WSAVAではコアワクチンの追加接種について、「3年以上間隔をあける」ことを推奨しています。
つまり、毎年接種する必要はないということです。
抗体検査を受けて、抗体がどれくらいあるか調べてみると安心ですよ。
日本では、ペットホテルやドッグラン、犬との宿泊施設など、ワクチン接種の証明書がないと入れない場所が多くあります。このため、愛犬に毎年ワクチンを受けさせる方も多いのですが、抗体検査を受けると「抗体検査証明書」が発行され、ワクチン証明書と同じ効力があります。
ワクチンは病気を予防してくれますが、副作用もあります。
特にアナフィラキシーショックは死に至る怖い副作用です。
やみくもにたくさんの種類のワクチンを接種するのはお勧めできません。
ただ、日本ではコアワクチンだけの混合ワクチンがないようで、コアワクチンをすべて含んだ混合ワクチンとなると、コアワクチンの4種にパラインフルエンザのワクチンを含む5種混合になります。
混合ワクチンの取扱いは動物病院によって種類(会社)が違うので、獣医師に聞いてみるといいでしょう。
まとめ
日本では、狂犬病ワクチンを毎年受けることが義務となっているため、ほかの混合ワクチンも毎年、接種しなければいけないと思い込んでいる方が多くいます。
さらには、できるだけ多くの種類を接種したほうが安心だと、何のためのワクチンなのか知らないまま、最多の11種混合ワクチンを接種させている人もいます。
ワクチンは、ときには死に至る怖い感染症から守ってくれる有効な予防法ですが、それと同様、死に至る副作用があることも忘れずに。
獣医師と相談しながら必要のないワクチン接種は避け、愛犬の住居環境やライフスタイルに適した混合ワクチンを選びましょう。